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【Misao's First India Report(10)】
=Permission range=


DATE:2001.08.10 in New Delhi
REPORT&PHOTO:石谷みさお(りぶらぶりんくドットコム)


車が止まるたび、どこかで降りる度に子供の物乞いや物売りが来た。苦しむ相棒の隣で、私は、ただ冷静にその存在を確認していた。胸を痛めたところで何になる。
「物乞いをする子供を観て胸が痛みました。」
そんな言葉一つ書いたところで、何も伝わらない。

『カメラマンは人の苦しみにはほとんど心を動かされない冷酷な性格である。そして文章を書く作家の方は、心優しくしかし表現力はあまりない人だとする。どちらがアフリカの飢餓をより強烈に、世間に訴えられるか。』
曾野綾子著:「悲しくて明るい場所(ほどほどの効用から)」

何事であれ、何かを見てそれを表現する事を自分が求めた以上、私は常に前者でありたい、と思う。もともと、優しさなど欠片も持ち合わせない私には、さほど難しい事ではない。表現力は10年もすればそれなりに磨かれる。

車が止まり、また誰かが窓を叩く。その瞬間、まるで頭を大きなハンマーで殴られたような衝撃を感じた。見てはいけないものを見た怖さだった。
美しい顔をした少女は、泥と埃で真っ黒になった粗末なシャツの片袖を見せて私に乞うた。私は彼女の存在を拒否するように目を背けた。冷酷であるとか、優しいとか、偉そうな事を言っていた自分の許容範囲は、それを感じるところまで達していなかった。ただただ、彼女が怖かった。

「マダム、1ルピー」

窓を叩きながら何度も何度も片袖を見せては繰り返す少女。
そこに腕は無かった。


written by Lucy Misao
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