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【Misao's First India Report(20)】
=mistake *after part* =


DATE:2001.08.08.13 in Chennai
REPORT&PHOTO:石谷みさお(りぶらぶりんくドットコム)


「で、何買ってきたんですか?」
「うるさい。」

大きな袋を抱え、ふくれっつらをしてロビーに座り込む私に相棒が尋ねる。

「何怒ってるんですか?」
「ほっといてくれ。」

運転手が連れて行ってくれたのは、日本でいう山の手あたりの高級セレクトショップ。いつもなら、こんなクソ高いところはドアを開けた瞬間「すんません、店間違えました。」というところ。けれど、こちとら有閑マダム。ミスターRMの運転手が案内してくれた場所にひるむわけにもいかない。

「インドの工芸品でございます。」
ドアを開け、不慣れな足取りで店の中を物色する私に微笑みながら近づいてくる、イギリス紳士のようなイロオトコ。

「マダム、お茶は如何ですか?」
「マダム、シルクのスカーフもございます。」
「マダム、コバルトのテーブルウェアです。とても良い物です。」

デリーの怪しげな店員とは全く違う戦法で敵は迫ってくる。だまされちゃイケナイ、買っちゃイケナイ。平静を保とうと、気のない返事を繰り返しても、甘い声でマダム、マダムと連呼され、誰もいない二階へこっそり二人きりで案内され、私のためだけにエアコンのスイッチを入れるその細い指を見てしまっては、ああもうだめ。

うっとりうつろな視線で、頬を赤らめる私はすっかり彼の虜。いいのよ、アタシは有閑マダム、あなたの言うとおり、何でも買ってあげる。まるで魔法にかかったように、甘い声でささやきながら、次から次へと広げられるカシミヤのマットを前に、
「じゃこれいただくわ。」

正気に戻った時既に遅し。
私はバックとランチョンマット、そしてカシミヤの玄関マットを前に、100ドル紙幣を差し出していた。

「で、これを買わされてきたわけですか。しかもドルで。」

相棒は明らかに軽蔑のまなざしで私を見ていった。
「つくづくあなたという人は、イロオトコに弱い人ですね。」
反論はしない。確かに私はイロオトコに弱い。
けれど、今回は少々事情が違う。

高級ホテルに泊まって、ちょいといいドレスを着て、出会う人皆にマダムマダムと呼ばれ、オマケに運転手付の車まで用意されて、心が信じられないような勘違いをしていた。日本から持ってきたわずかな小遣いがこの国では大きな金額になった事も拍車をかけた。
イロオトコに騙されたのは仕方ない。それはそれでまた楽しい。けれど、こんなバカな買い物をしたのは決してイロオトコに騙されたからだけではない。ほんの少し自分を取り巻く環境が変わっただけで、バカみたいな勘違いをし、現実を見失った心の弱さが原因だ。今、私が抱きかかえているカシミヤのマットは、分不相応な振る舞いをした私そのものだ。

「まあ、いい勉強をしたと思って。機嫌なおして下さい。」
「うるさい。」

あまりの情けなさに、どうする事も出来ず、相棒にヤツアタリを繰り返す。支払った金額を聞いたミスターRMの顔は引きつっていた。


written by Lucy Misao
web livelovelink.com

 

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