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【Misao's First India Report(23)】
=first class=


DATE:2001.08.08.13 in Chennai
REPORT&PHOTO:石谷みさお(りぶらぶりんくドットコム)


「チェンナイ中央駅でミスターRMにお世話になったお礼を言い、氏が手配してくれたハイデラバッド行きの寝台車に乗り込む。個室のファーストクラスの料金は飛行機とほとんど変わらない。
「なんでもホテル並の設備だそうです。」
確かに、この料金はインドの物価からするとべらぼうな金額。おまけに、私たちの乗り込む車両の昇降口には、名前がタイプされた紙まで張ってある。見た目は日本で昔払い下げになったような古い古い青い列車。きっと中はヨーロッパ仕立てに改装された素晴らしい列車に違いない。いったい、どんなゴージャスなブルートレインの旅が待ち受けているのか?ウキウキしながら乗り込んだ。
しかし........。

詳しくは書かない。けれど少し想像して貰いたい。
若かりし日の高倉健の映画を。そして、あの色を。

アルミ製の幅の狭い引き戸。茶色い革張りの幅広ソファ兼ベッド。小さく曇ったガラス窓に、ブルーの質素なカーテン。窓際の小さなテーブルを昔の学校の机よろしく上に開ければそこにモノ入れならぬ小さな洗面台。懐かしい寝台列車は忘れていた記憶を呼び覚ます。

小学生だった私は、函館に住む臨終間近の祖母に会うために寝台列車の中にいた。今と違って、夜に駅弁は売りに来ない。母は夜食にバッテラと巻きずし、そして天津甘栗を用意していた。しかし、それを私たち家族が口にする事はなかった。向かいのベッドでお腹を空かせて泣いていた小さな子供と若い母親にあげてしまったのだ。
結局、深夜2時に青函連絡船乗り場に迎えに来た伯母と会うまで私はひどくお腹を空かせていた。コンビニ時代の今でも、新幹線以外の長距離列車に乗るとすぐに駅弁を買う癖があるのはきっとこのせいだ。

「駅弁は売りに来るんかなあ?」
「何バカな事、言ってるんですか?」
思わず口走った私の気持ちなど知らぬ相棒は、せっせと荷物の整理を始めている。

午後6時10分。
列車はゆっくりとゆっくりと時間の狭間を漂うように、発車した。

written by Lucy Misao
web livelovelink.com

 

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