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【Misao's First India Report(26)】
=Bakhshish(喜捨)=


DATE:2001.08.14 in Secunderabad
REPORT&PHOTO:石谷みさお(りぶらぶりんくドットコム)


朝7:30。
曇り空のスカンディラバッドの駅に降りる。
駅の造りも、人の衣も、デリー、チェンナイ(マドゥラス)などの大都市とは全く違う風景がそこにある。人混みの中、迎えの車を探す。その間にも客引きや物乞いが休む間もなく声をかける。
「ちょっと探してきます。ここで待ってて下さい。」
そういって相棒が駅の反対側へと向かった後、残された私は何度も「NO」を繰り返しながら、ただ、ぼんやりとそこにある光景を眺めていた。
「すみません、車は反対側みたいです。」
戻ってきた相棒に促され早足で反対側の駅前広場へと向かう。道は所々に水たまりが出来ている。空はいまにも雨が降り出しそうな重苦しい色をしている。目の前に広がる光景がその色と相まって、一層気分を重くさせる。
待っていた運転手は、英語の達者なよく喋る若者。相棒と再会を喜び合いながら、手際良く荷物をトランクに入れていく。傍らで私は、数人の老人、小さな子供を連れた母親の物乞いに囲まれていた。
このとき、何故私はすぐに車に乗り込まなかったのか。
今でも良くわからない。

夕暮れのティルパティで私たちは物乞いに囲まれていた。
女へと変わりかけた身体つきの美しい少女はヨガの座禅を組んだまま、手と腰をつかって近づき、喜捨を求めた。少年はまるで犬のように四つん這いで走りながら、私たちのまわりを行き来した。骨と皮しかないような身体に大きな目を光らせて、最後まで車の窓をたたき続けた。老人は真正面から手を差し出した。私はただ黙って車に乗り込み、その異様な光景を淡々と見つめていた。
その時、ミセスRMはバックの中から数枚の小銭を取り出し、何かを言って、彼らに与えた。喜捨をしている人を見たのはその時が初めてだった。何も問題はなかった。

-そう、何も問題はないのだ。

相棒と運転手が話しをしている横で、私はバッグから財布をとりだしその中にあった数枚の小銭を小さな子供を連れた母親に手渡した。
その瞬間。
私を囲んでいた物乞いがもの凄い勢いで言い争いを始めた。母親は小銭を握りしめ大声で老人を威嚇した。別の老人は大きな声を出して私に喜捨を求めてきた。私は体中が震えた。

「何してるんですか!」
異常に気付いた相棒があわてて私を車に押し込み、物乞いに囲まれながら車を発車させた。

「何してるんですか?」
「......................」
「あんなところで財布を出して、なんでそんな危ない事をするんですか?」
「......................」
「命だって危ない。いや、そこまでいかなくても、財布を奪われかねない」
「......................」
「いったい、何考えてるんですか!」
「......................」

ミセスRMのしたのと同じようにした。
そうすればいいのだ、と思った。
深い考えなど何もなかった。
別に大した事じゃない。
何も問題は起こらなかった。
ただ-

私には、自分自身に対する軽蔑と得体の知れない恐怖だけが残った。

written by Lucy Misao
web livelovelink.com

 

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