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【Misao's First India Report(4)】
=The Professional Consciousness=


DATE:2001.08.09 in New Delhi
REPORT&PHOTO:石谷みさお(りぶらぶりんくドットコム)


ミセスARが雑巾とモップを持ってやてきた。お礼を言ってバスルームの床を拭き始めると、微妙な顔つきで相棒に何かを言っている。
「彼女がやるって言ってますけど」
まさか、自分のシャワーの後始末を彼女にさせるなんて失礼な事は出来ない。それに彼女は今、料理の最中だったはずだ。

「OK,OK」と言いながら、床を拭く私の横で、相棒が彼女と何やら話し、「OK」と言って彼女がキッチンへ戻った後で、私に事の次第を話し始めた。

「ここでそういう事をしちゃいけない。」
「?」
「彼女は自分のサービスに落ち度があって、あなたが自分でやると言ったと思ってる。」
「!」

「今ね、ビール買いに行って貰ってます。あなたが飲みたがってるから。」
「なんで人に頼むのん?自分で行くのに。そんなん悪いやん。」
「あの人達にとっては、それが仕事なんです。掃除をする。料理を作る。食器を洗う。買い物に行く。運転する。日本やアメリカなら自分でやってアタリマエの事ばかりです。でもそれが彼らの生業で、そして彼らはその仕事に誇りを持っている。」

「つまり私は」
「彼女の仕事を奪って、そして誇りも傷つけた。」

「そういう事です。」

「そうか」
「そうです。」

「どないしたらええ?」 
「今の事に関しては、もう仕方ない。彼女には上手く言っておきます。ただ、この国にいる間は、この事は忘れないで下さい。」

自分の事は自分でやる。ガキの頃からずっと信じてきた価値観が決して絶対ではなかった事に、頭に中がカーっと熱くなるのを感じながら、一人になった部屋で、ただせわしなく荷物の整理を始めた。整理するほどの荷物もないのに、ただ、出しては入れ出しては入れを繰り返す。

半時間程して、相棒が一緒に飲もうとやってきた。ロビーのソファに座り、ミセスARの用意してくれたグラスに、缶入りの”King Fisher Premiam”を注いで、第一日目に乾杯する。

「ミセスARは、もし夜中に何かあれば、いつでも呼んで欲しいと言ってました。」

彼女はここで住み込みで働きながら子供を育てている。小さな可愛い女の子。母親なら誰しも夜は一緒にゆっくり眠りたい。それでもいつでも呼んで欲しいというのは、彼女のプロ意識に他ならない。

明日からの予定を確認した後、たわいもない話しをしながら、二本目のビールを飲み干し、相棒におやすみを言って部屋に戻った。

散らかしたテーブルはそのままで。

written by Lucy Misao
web livelovelink.com

 

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